夏休みの愛(後編) - 一公の将棋雑記

第6図以下の指し手。▲4七同金△4六歩▲5六金△4七銀▲6八玉△5六銀成▲同馬△6一金打▲6三歩△同金▲3一飛(第7図)

私はさして考えず▲4七同金とした。だが飯野愛女流初段はこちらに回って来ず、私はこの局面をまじまじと眺める。すると▲4七同玉とし、上に逃げる手を見せるのがベストに思えてきた。また▲7一銀と手掛かりを残しておく手もあった。

左の将棋はイ図。「読み切りました!」と成人氏が鼻息を荒くし、▲5三角と放った。

こちらに戻り、飯野女流初段は△4六歩から△4七銀。私にとって怖い展開だが、この銀が私の駒台に載れば心強い。▲6八玉と指し掛けて▲5七玉も考えたが、それは△6五桂が入ってしまう。

冷静に▲6八玉と指した。

▲5六同馬のあたりで午後5時25分になり、感想戦の時間になった。しかしW氏の判断は、「(もう3局終わっているし)成り行きで」だった。

飯野女流初段は△6一金打。ここに1枚入れられると急に固くなった感じで、なおさら私は、どこかで▲7一銀を入れておくべきだった。

私は▲6三歩から▲3一飛だが、しくじった感は否めなかった。

第7図以下の指し手。△4四桂▲3四馬△5六桂打▲7八玉△6二金上▲7一飛成△9三玉▲8五銀(投了図)

まで、105手で一公の勝ち。

左の将棋。「合駒が悪いですか」と飯野女流初段はイ図から△4二銀と受ける。成人氏は▲4二同角成。

??

「寄らないと思う……」と私はつぶやき、自分の将棋を考える。

しかし△4二銀以下▲同角成△同金▲3二銀△同金▲同桂成△同玉▲4二金△同玉▲5三銀成(ロ図)まで、成人氏が勝った。

「▲4五桂があったのか!」と私は驚く。

上記の寄せは下手が1枚損をしている。すなわち▲4二同角成で先に▲3二金と打ち、△同金▲同桂成△同玉▲4二角成なら、銀が残る。よって△4二同玉に▲5三銀打△3一玉▲4二金まで、と考えたのだが、▲4五桂がいてはその節約も関係がなかった。

ただ成人氏は、1枚損をする寄せをした、ということは覚えておくべきだろう。

私の将棋は、飯野女流初段が△4四桂と馬取りに跳ねた。さすがの活用で、先の△3三桂と通じるものがある。

△5六桂打▲7八玉のあとは、△6七歩成▲同玉△9九角成がイヤだった。香を取られるのが痛く、ヘタをすると上手の上部が抜けてしまう。

ところが飯野女流初段は、△6二金上。これは▲7一飛成がありがたい。そして▲8五銀。ここで飯野女流初段が投了し、急転直下の終局となったのだが……。

投了図で△8四歩と突かれたら、どう指していいか分からなかった。即詰みはないから▲8二銀△8三玉▲8一銀成の予定だったが、△8五歩で難しい。

ただ、もう対局時間は終わっていたし、勝負の雰囲気はなかった。飯野女流初段が適当なところで切り上げてくれたのだろう。

「△5六桂打が悪かった」

と飯野女流初段がつぶやく。そして「取り込んで角を引いて定跡から離れましたよね」

と言った。私は何のことか分からない。

まず、△5六桂打に代えては△6五桂くらいか。

私は▲6一馬△同銀▲同飛成と進めるが、△6七歩成▲同玉△3四角(参考2図)が王手竜取りだ。

これでも私が勝てそうだが、大野八一雄七段は、▲6一馬では▲6一飛成△同銀▲同竜として、馬を自陣に利かせるのがいい、と教えてくれた。

序盤の検討に戻り、途中1図から私が▲4四歩と取りこんだのが変調で、ここは黙って▲8八角だったという。ああ思いだした。▲8八角以下△4五歩▲5五銀(知らないと指せない手)△4四銀▲同銀△同金▲2三歩△同飛▲3二銀△2二飛▲2一銀成△2三飛▲1五桂△2一飛▲4五桂(参考3図)という手順だったか。これは大野教室でOg氏らと検討したこともあった。

しかしプロだから当然とはいえ、飯野女流初段がここまで定跡に精通しているとは思わなかった。

本譜に戻り、途中1図から▲4四歩△同金▲8八角△4五歩▲2五歩に、私は△5二飛がイヤだったが、▲2四歩と進めると飯野女流初段が首を傾げる。△5二飛は上手もおもしろくない、というわけだ。

では△4五歩がマズイというわけで、大野七段が示したのが△5四金!(参考4図)

後の譜でも現れたが、こうやって金を捌くのがいいのだ。△5四金以下は▲3三角成△同桂▲2三歩に、△4二飛でも△5二飛でも下手難局。こう進めば「(左)桂が跳ねているのが大きいね」(大野七段)というわけで、私が順当に負けていた。

私は最近半引きこもり状態だったので、今回は久しぶりに、人間らしいひと時を過ごすことができた。飯野女流初段およびスタッフの皆様に感謝します。