嘘の嘘

結婚か。

彼女がいうことに僕はいつもついていけない。

出逢った頃からずっと前を歩いていて

僕はその背中しか

彼女について知っていることはないみたいだ。

コウちゃん、私たちさ、結婚しようね。

うん。良いよー。

母の運転する車の後部座席で

僕らは婚約をした。

もう10年以上前のことだった。

それから幾星霜、

そんな戯けた婚約のことなど棚に上げたまま

僕と秋咲は同じ学校に未だ通っている。

でも最近になってまたその所謂ノリみたいな

そんなやりとりをするようになった。

大人になったら結婚しようね。

は?

約束したでしょ。

なーにいってんの。

忘れたの?

いや、アレは別にそういうんじゃないしさ。

嘘つきー。

嘘ではないだろ。

嘘だよー。男に二言はないでしょ。私を嫁にしろー。

どうしたんだよ急に。

結婚したい気分なんだよ。

気分で結婚したら痛い目にあうよ。

うっさい。痛い目にあうのはコウちゃんも一緒なんだぞ。

意味がわかんない。

初めはこんな感じだった。

でも最近じゃ結婚することは

もうお互いの決定事項になっていた。

いつ結婚するか。

どこに住むか。

子供の名前は。

話題がなくなるとそんな嘘話をしていた。

結婚なんて本当にするわけがない。

彼女に好きだとも言ったことがないのに。